レスポンシブWebデザインで構成したECサイト(レスポンシブECサイト)が今後のECサイト事業の売り上げ拡大の大きなカギを握る理由を整理したいと思います。
レスポンシブECサイトの登場背景
ネット利用者のモバイル化/マルチデバイス化が加速しています。2015年頃にはモバイル端末のネット接続がPCを上回り、モバイル中心のECサイト利用市場になると予測できます。
全世界のモバイルデータトラフィック予測 Cisco Visual Networking Index
つまり、これまで通用してきた「PC向けECサイト中心」の考え方から「モバイル・マルチデバイス中心」の考え方へとパラダイムシフトしなければいけないということです。
当然ECサイトの構造自体も、PC中心からモバイル・マルチデバイス中心へと移る必要がありますが、PC中心のECサイトの派生型として進化してきたこれまでのスマホ対応方法(例えば、PCサイト/スマホサイトとデバイス別にページ分離構成で構築する方法や自動変換など)には運用の限界が生じています。
スマホ対応のみならず、タブレットやこの先登場するネット閲覧端末(ネットTVなど)へのマルチデバイス対応を前提としたECサイト運用方法へ構造改革が必要とされているのです。
そのような中で登場したのが、1つのWebサイトであらゆるデバイスに対応させようとするレスポンシブWebデザインであり、それらをECサイトへ導入したものがレスポンシブECサイトです。
レスポンシブECサイト導入意識の高まり
レスポンシブECサイトの意義は、1つのWebであらゆるデバイス対応できるという“運用効率”や、ユーザーがどのような端末でECサイトを閲覧しても同じURL/同じHTMLを閲覧することの“マルチデバイスで高いUXが提供できるため満足度が高いECサイトが提供可能”という点があります。
その上で、さらに加速させている大きな要因の1つはGoogleが『レスポンシブWebデザイン』を、最も推奨するマルチデバイス対応のWebサイトであるとしたこともあります。
Building Smartphone-Optimized Websites
例えばECサイトを運営する上で、Google検索エンジンから自然流入を得ることは最も重要な要素の1つであるため、当然ながらGoogleが推奨する(SEOに強い)ECサイトにすることの意義は大きく、場合によっては全てであると言い切ってしまう事業者も少なくない状態です。
ECサイトとSEOの対応はきっても切れない関係です。となればGoogleが推奨するECサイトの構成方法を取らざるを得ないのも事実であり、レスポンシブECサイト導入意識が高まっています。
レスポンシブECサイトの導入効果(ECサイト売り上げ拡大への寄与)
1. 運用の手間が約3分の1に低減されること
構築/更新するページや画像は基本的に1つであり、これまでのスマホ対応のようにスマホ用のページや画像制作が必要ないためECサイト運用が楽になります。またタブレットや今後のネットTVなどへも同時対応が可能にもなります。
よって商品/集客/CVR改善などの業務のリソース確保ができるため売上拡大への寄与は大きくなります。
参考:レスポンシブECサイトを運用して分かった効率面・移行コスト・課題について
2. Google検索エンジン(SEO)に最適であること
Google推奨するスマホ対応方法であり、検索エンジン(SEO)に最適。これまでのECサイト運用に比べアクセス数が増加する検証結果も得られています。
参考:自然検索アクセス146%伸長。ECサイトのレスポンシブ化がSEOに強い理由を検証。
3. あらゆるデバイスで満足度が高いECサイトが実現
スマホやタブレットでさらに商品購入がし易くなります。またどのような端末でECサイトを閲覧しても高度で均一なUXが提供できるため、購入率(CVR)が高くなります。
参考:レスポンシブ化でリスティング広告効果改善、CVR(転換率)が167%向上
レスポンシブECサイトへの移行の課題
しかしレスポンシブWebデザインで構築されたECサイトにも、いくつかの課題が存在いたします。
1. 移行コストの課題
レスポンシブECサイトは、これまでのECサイトに追加で導入できるものではありません。建築物で言うなら、基礎工事の方法が異なるためにやはり移行コストが発生してしまいます。
しかし、多くの方がレスポンシブECサイトへの移行は「ECサイトの作り直しが必要」のように思われていますが、そんなことはありません。私たちはこれまでのPCサイトを“ほぼ”そのまま、スマホ/タブレットへ対応させる『レスポンシブ化』という手法をお勧めしています。デザイン、レイアウト、サイトマップなどを作り大きく直す必要がないために少額での移行が実現します。
2. 社内の知識の課題
レスポンシブECサイトではこれまでのように画像やページをPC用、スマホ用分けて作成をしないため、レスポンシブECサイト用の画像やページ作成のポイントを押える必要があります。
参考:失敗するレスポンシブWebデザインにありがちな2つのミス
しかしこの点はあまり難しいことではなく、これまでECサイトの制作更新作業をされている方であれば、私たちがアドバイスするだけで問題は解決できています。
3. よく問題視される解決済みの2つの課題
よく問題視される点に『PCと同じソースコードをモバイルでも利用するため表示が遅くなる』ということがありますが、この点はすでに解決済みです。詳しい技術の案内はできませんがaishipRのECサイト構築ASP上でレスポンシブECサイトを運用していれば、アクセス端末がスマートフォンであることをサーバ側で認識し、表示を軽くする処理を加えています。
要はサイト側(HTMLやCSS側)だけでなく、サーバサイドでの処理を加えることで実現し、結果実際の運用でこれまで別々で構築していたサイトよりCVRが167%向上している結果を得られています。要は重くなる問題は解決できています。
ただし、ECサイトを運用する場合はこれらの処理を自ら実施するか、もしくはこれらの処理を施された弊社aishipR のようなASP(CMS、ショッピングカートシステム)を利用することが前提となります。
また『PC/スマホ/タブレットで同じ画像やテキストを並び方の変更だけで対応しようとするために、ページの商品情報の訴求力が低下する問題』があります。この点については、絶対譲れない箇所には、デバイス特有の画像やテキストなどの個別表現をすべきで、それが実現できるレスポンシブEC向けのCMSでなければ売れません。
ECサイトは運営の楽さよりも売り上げが重要であることが多々あるため、レスポンシブでの“楽”と訴求性を高める“手間”のちょうど良いところを見出すことも重要な要素となります。
レスポンシブWebデザインでの運用が適しているECサイト
ECサイトに限定したことではありませんが、以下のようなWebサイトには特にレスポンシブを導入するメリットは非常に高いと言えます。
- 頻繁なページや画像更新作業が必要なサイト
- 頻繁なLPや特集ページ追加が必要なサイト
⇒デバイスごとの制作が必要ないため、費用対効果は非常に高くなります。
- サイトマップが複雑、サイト内のページ数が多いサイト
⇒デバイスごとにサイトが構成されないため、URL/サイトマップの構造がシンプル。管理のしやすさは抜群です。
- スマホやタブレットでの売り上げ拡大をしたいサイト
⇒これまでのスマホ対応のように、「細部まで対応できていない」「充実したページになっていない」ということがなくなるため、細部までのスマホ/タブレットへの対応が実現し、スマートデバイスでの売上拡大が大きく期待できます。
- PCサイト、携帯サイト、スマホサイト等各サイトをバラバラに構築してきたためにECサイト運用が複雑怪奇になっているサイト
⇒レスポンシブ化により、これら全てのサイトが1つに統合され、非常にシンプルな運用が実現します。
まとめ
日本を代表する企業、トヨタ自動車のWebサイトもレスポンシブWebサイトになりました。
市場のパラダイムシフトはずいぶん進み、モバイルのネット利用がPCを上回っている状況です、モバイル中心のネット市場になるのも時間の問題です。しかし、このようにレスポンシブECサイトの時代は始まったばかりです。ECサイトの使い勝手という観点から見たネット利用者とWebサイト提供者との「乖離」は解消されていません。
今後ネット利用のモバイル化/マルチスクリーン化はさらに加速するでしょう。大きなパラダイムシフトによる劇的な市場変化においては、自らの過去を否定し、新しいことに挑戦しながら、劇的な構造改革を実現する事業者が勝ち残ることになります。過去のPCベースの仕組みから脱却し、単なるスマホ対応ではなく、新たなモバイル化/マルチスクリーン化のための新たな仕組みを導入することが重要ではないでしょうか。
オンラインの検索の起点はもはやスマートフォンが72%を占め、さらにその検索をPCやタブレットなどに引き継ぐ「引継利用」が頻繁に行われています。
The Multiscreen World - Google
レスポンシブECサイトはこれらを実現するためのソリューションの1つに過ぎませんが、現時点で考えられるモバイル化/マルチスクリーン化に対しては、最適なECサイトの構築運用方法であると言えるでしょう。導入には大きなパワーを要する場合もありますが、私たちがこれまで導入してきた約70社については、多くの現場が『思っていたほどではなかった』と話されています。
レスポンシブECサイト導入はそれほど難しいことではありません。要は決定権者が決定するかどうかがカギを握っていると思います。ページ分離構成にするのか、レスポンシブにするのか、ECサイトのリニューアル、新規構築、スマホやタブレットの強化を図る際には必ず検討すべき大きな議題であると考えます。
岩波